1998年2月2日月曜日

通貨の急落にも拘わらず低迷するアジアの輸出

奇妙な事実がある。通貨の急落で大幅に輸出競争力が付いたはずのアジア各国の輸出がほとんど伸びていないのである。

インドネシアでは現地通貨ルピアが80%も下落して輸出が断然有利になったにもかかわらず、逆に輸出伸び率は昨年より鈍化している。マレーシアの輸出も最近は前年比マイナスが続いている。タイでも韓国でもほとんど横這いだ。通貨の大幅切り下げからすでに半年近くが経過したが、いまだに輸出にドライブがかからないのである。

つい最近までアジアから先進国への輸出の急増が保護主義につながりかねないと懸念されていたことを考えるとまるでうそのようだ。しかしこの事実にアジア経済の本質的な問題点がみえるように思う。

なぜ輸出が伸びないのか、いくつかの原因が考えられる。まずJカーブ効果がある。また伝統的な輸出産品の原材料品などは価格弾性値が低く安くなったからといって急に需要がでるものでもない。深刻な資金不足も問題だ。輸入部品や原材料価格は通貨切り下げで急上昇しているがL/Cをなかなか開くことができない。現地の付加価値ポーションが小さいので通貨を切り下げによる価格競争力の増加も部分的だ。
でももっと基本的な問題として、現地側に「輸出か、さもなくば死か」というような強烈な輸出姿勢がそれほど感じられないような気がするがどうであろうか。アジアからの輸出促進ミッションが頻繁に日本を訪れているとは聞かない。

多くのトランスプラントでは基本的に現地需要を対象としてライン設計がなされており、現地市場が崩壊したからといって簡単に先進国向け製品の生産に切り替えできないという事情があるという。

しかし1985年以降の円高進行のときは、日本企業は大挙して東南アジアに進出し、資本、技術、工場ばかりでなく、国内販売ネットワークに加え、輸出先などの海外ネットワークも現地に持ち込み、ゼロから必死で「アジアの奇跡」を実現させた。それが1995年春以降の円安基調への転換で、日本企業にはアジア現地工場からの輸出にそれほど強いインセンティブが働かなくなった。とたんにアジア各国で軒並み輸出の鈍化がはじまった。そろそろ「アジア発」の輸出努力があってもよいのではないか。

もちろん日本市場が冷え切っていることもある。昨年の日本のアジアからの輸入は数量ベースで前年比0・8%の増加にとどまった。特に下半期の各月は前年比マイナスが続いている。そこで「日本責任論」が出てくる。

しかしアジア経済の奇跡とその反動は、歴史的に円ドル相場に大きく影響されたことを考えると、そうとばかりはいえない。円ドル相場はひとえにアメリカの通商・金融政策に因るところが大きいからである。アジアは日米両国の貿易摩擦の受益者でもあり被害者でもあった。グローバル経済のなかでの犯人探しは決して生産的ではない。

いま重要なことはグローバルに、マクロ、ミクロ両面から、危機脱出のためのきめ細かい対策をひとつずつ組み上げていくことだろう。とくに民間ビジネスが果たす役割が大きく、そのための貿易保険、輸出入金融など、ビジネス環境の整備を求めたい。

(橋本)